材軸方向に圧縮力を作用させたとき

図のように、材軸の軸方向に圧縮力を作用させ、この力を増大していくとき、
押しつぶされる圧縮破壊が起きる前に、湾曲してしまうことがあります。
この軸方向の圧縮力を受けて湾曲してしまう現象を座屈といいます。
このような座屈が生じる部材を長柱といい、
軸方向の圧縮力を受けても湾曲しないで
押しつぶされる部材を短柱といいます。

そのため、圧縮を受ける部材は、
座屈を考慮する必要があります。
座屈方向
湾曲する方向のことを座屈方向といいます。
座屈軸
座屈方向と直角をなす軸です。
断面二次モーメントが最小値となる軸です。弱軸とも呼ばれます。
【関連記事】<弱軸とは>
オイラーの理論式
スイス出身の学者オイラー(1703~1783)が発表した座屈に関する理論式を
オイラーの座屈荷重といいます。
\(P_{cr}=\Large{\frac{\pi^2EI}{l_k^2}}\)(\(N\))
\(\pi\):円周率(無名数)
\(E\):ヤング係数(\(N/mm^2\))
\(I\):断面二次モーメント(\(mm^4\))
\(l_k\):有効座屈長さ(\(mm\))
オイラーの座屈荷重は、曲げ剛性(\(=EI\))と部材の長さ(\(=l_k\))に支配されている。
という部分が最大のポイントです。
【関連記事】<断面二次モーメントとは・ヤング係数とは・曲げ剛性とは>
有効座屈長さ
有効座屈長さは、部材の拘束条件(支点の境界条件)によって変化します。
主な支点の条件は、
- 支点の移動に対する条件
- 支点の回転に対する条件
です。
座屈長さ(移動:拘束、回転:両端自由)
移動に対する条件 | 拘束 |
回転に対する条件 | 両端自由 |
有効座屈長さ | \(l_k=1.0l\) |

座屈長さ(移動:拘束、回転:両端拘束)
移動に対する条件 | 拘束 |
回転に対する条件 | 両端拘束 |
有効座屈長さ | \(l_k=0.5l\) |

座屈長さ(移動:拘束、回転:一端自由・他端拘束)
移動に対する条件 | 拘束 |
回転に対する条件 | 一端自由・他端拘束 |
有効座屈長さ | \(l_k=0.7l\) |

座屈長さ(移動:自由、回転:両端拘束)
移動に対する条件 | 自由 |
回転に対する条件 | 両端拘束 |
有効座屈長さ | \(l_k=1.0l\) |

座屈長さ(移動:自由、回転:一端自由・他端拘束)
移動に対する条件 | 自由 |
回転に対する条件 | 一端自由・他端拘束 |
有効座屈長さ | \(l_k=2.0l\) |

つまり、有効座屈長さが大きい方が、
座屈破壊しやすくなるということです。
細長比
有効座屈長さ\(l_k\)と断面二次半径\(i\)の比を細長比といい、記号\(\lambda\)で表します。
\(\lambda=\Large{\frac{l_k}{i}}\)(無名数)
\(i=\sqrt{\Large{\frac{I}{A}}}\)
【関連記事】<断面二次半径とは>
建築基準法で、細長比の最大値は250以下にしなければならない、と制限されています。
また、柱材に関しては、200以下にしなければなりません。
座屈応力度
オイラーの座屈荷重を断面積\(A\)で割ると単位面積あたりの荷重、
つまり座屈応力度が求まります。
\(\sigma_{cr}=\Large{\frac{P_{cr}}{A}}=\frac{\pi^2EI}{l_k^2\cdot{A}}=\frac{\pi^2E}{\lambda^2}\)(\(N/mm^2\))
この式は、弾性座屈の範囲にのみ適用されます。
具体例を出しながら説明を進めていきたいと思います。
限界細長比
F値とは
鋼材の許容応力度を決める基準となる値のことをF値(えふち)といいます。
鋼材の基準強度の値のことです。
鋼材の降伏点もしくは、引張強さの70%の値のうち、小さい方の値として定められています。
400N級(厚み40mm迄)⇒F=235\(N/mm^2\)
490N級(厚み40mm迄)⇒F=325\(N/mm^2\)
まずこのふたつの数値は知っておいてください。

オイラー式は、細長比\(\lambda\)が小さいとF値を超えてしまいます。
そのため、\(\sigma_c=0.6F\)のときの\(\lambda\)の値を限界細長比\(\Lambda\) と定義し、オイラー式の適用の上限としています。
\(\Lambda=\sqrt{\Large{\frac{\pi^2\cdot{E}}{0.6F}}}\)
400N級(厚み40mm迄)⇒ 120
490N級(厚み40mm迄)⇒ 102 となります。
非弾性範囲(\(0<\lambda<\Lambda\))の座屈応力度は、次式で計算します。
\(\sigma_{cr}=\Large{{}\)\(1-0.4(\Large{\frac{\lambda}{\Lambda}}\)\()^2\Large{}}\)\(F\)
長期許容圧縮応力度(座屈応力度)
座屈応力度\(\sigma_{cr}\)を安全率\(\nu\)で除した値を、長期許容圧縮応力度\(f_{cr}\)であらわします。
\(\nu=\Large{\frac{3}{2}}\)\(+\Large{\frac{2}{3}(\frac{\lambda}{\Lambda})}\)\(^2\)(ただし、\(\lambda>\Lambda\)のとき、\(\Large{\frac{\lambda}{\Lambda}}\)\(=1\)とする)

\(0<\lambda\leq\Lambda\)のとき、\(f_{cr}=\Large{\frac{{1-0.4(\frac{\lambda}{\Lambda})^2}F}{\nu}}\)(\(N/mm^2\))
\(\Lambda<\lambda\)のとき、\(f_{cr}=\Large{\frac{0.277F}{(\frac{\lambda}{\Lambda})^2}}\)(\(N/mm^2\))

横座屈
横座屈は、曲げを受ける材において、部材に一様に曲げモーメントが作用したとき、
曲げモーメントにより生じるねじりモーメントによってねじれ回転を起こし、
曲げが加わる軸に対して垂直方向にたわみを生じて座屈する現象です。
局部座屈
部材を構成する板要素が圧縮を受けたとき、部分的に座屈を起こしてしまう現象です。
薄くて幅が広い板の方が、より局部座屈が起きやすいです。
局部座屈を避けるために、幅厚比(=板材の幅/厚みの値)の制限があります。
それぞれ一つずつ記事を書けるボリュームがあります。
今回は、概要のみの説明とします。
参考文献
- 佐藤邦昭(2011年)「技術基準による鋼構造の設計」鹿島出版会