コンクリートに埋まっている鉄筋から、
このコンクリートの表面までの最短距離のことを、かぶり厚さといいます。

なぜ、かぶり厚さの最小値が定められているのか
鉄筋コンクリート部材において、曲げモーメントに抵抗するため
鉄筋は断面のできるだけ外側に配置する方が効率が良いと考えられていますが、
かぶり厚さの最小値が定められています。
構造耐力を確保するため
主筋のかぶり厚さが鉄筋径に対して小さいと、
主筋に大きな応力が作用したとき、
主筋に沿ってコンクリートにひび割れが生じ(=付着割裂ひび割れ)
部材の耐力が急激に低下します。
付着割裂破壊が起きないように付着性能を確保する目的で、
かぶり厚さを確保する必要があります。
耐久性を確保するため
硬化したコンクリートが空気中の炭酸ガスを吸収すると、コンクリート中の水酸化カルシウムは
炭酸カルシウムに変化し、コンクリートのアルカリ性が失われていきます。
この現象を中性化といいます。
コンクリートの中性化が、鉄筋部分にまで進行すると、酸素と水分の作用によって
錆が発生します。錆が進行すると、鉄筋コンクリートの耐力が低下します。
中性化の速度、鉄筋部分までの進行時間などを考慮して、かぶり厚さを決める必要があります。
錆が発生→錆部分の体積が膨張→錆による膨張によりコンクリートを破壊→
→ひび割れが発生し、このひび割れからさらに酸素と水分が内部に侵入→
→さらに錆が発生・・・という負の連鎖が始まります。

鉄筋に錆を生じさせないようにすることが大切ですね。
耐火性を確保するため
鉄筋コンクリート造の建築物で火災が発生すると、温度上昇により表面のコンクリートだけでなく
内部の鉄筋の強度が低下します。この鉄筋の温度上昇を抑えるために
かぶり厚さを確保する必要があります。
最小かぶり厚さの規定値
この数値を下回ってはならない、という寸法です。
部材の種類 | 短期 屋内・屋外 | 標準・長期 屋内 | 標準・長期 屋外(※1 | 超長期 屋内 | 超長期 屋外(※1 |
---|---|---|---|---|---|
柱・梁・耐力壁 | 30 | 30 | 40 | 30 | 40 |
床スラブ・屋根スラブ | 20 | 20 | 30 | 30 | 40 |
構造部材と同等の耐久性を要求する非構造部材 | 20 | 20 | 30 | 30 | 40 |
供用期間中に維持保全を行う部材 | 20 | 20 | 30 | (20) | (30) |
直接土に接する柱・梁・床 および布基礎の立上り | 40 | 40 | 40 | 40 | 40 |
基礎 | 60 | 60 | 60 | 60 | 60 |
※1 耐久性上有効な仕上げを施す場合は、10mm減じることができる。
設計かぶり厚さの規定値
設計かぶり厚さ=最小かぶり厚さ+10mmです。
施工誤差を考慮し、安全側になるように定められた数値です。
これらの数値は、各部材の最も外側の鉄筋に対して適用します。
柱なら帯筋(フープ)、梁ならあばら筋(スターラップ)。
部材の種類 | 短期 屋内・屋外 | 標準・長期 屋内 | 標準・長期 屋外(※1 | 超長期 屋内 | 超長期 屋外(※1 |
---|---|---|---|---|---|
柱・梁・耐力壁 | 40 | 40 | 50 | 40 | 50 |
床スラブ・屋根スラブ | 30 | 30 | 40 | 40 | 50 |
構造部材と同等の耐久性を要求する非構造部材 | 30 | 30 | 40 | 40 | 50 |
供用期間中に維持保全を行う部材 | 30 | 30 | 40 | (30) | (40) |
直接土に接する柱・梁・床 および布基礎の立上り | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 |
基礎 | 70 | 70 | 70 | 70 | 70 |
※1 耐久性上有効な仕上げを施す場合は、10mm減じることができる。
10ミリ以上のモルタル塗り、などです。
薄い膜厚(10ミリ以下)の吹き付け塗装などは含まれません。
「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」の性能表示を受ける場合は、
屋上の柱・梁や屋外の床に関しては、10mm減じることができません。
外壁を構成する柱・梁については、耐久性上有効な仕上げがある場合、
かぶり厚に係る緩和規定を適用することができます
計画供用期間の級とは
建物が何年間使われる予定なのか、
「短期」「標準」「長期」「超長期」の4段階で区分けされています。
短期:30年
標準:65年
長期:100年
超長期:200年
まとめ
鉄筋コンクリート構造の各部材ごとに、付着を確保し、ひび割れ・中性化を防ぎ、
また火災時の温度上昇を緩和する目的で必要なかぶり厚さが定められています。
参考文献
- 日本建築学会(2010年)「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」
- 佐藤立美・荒木秀夫・森村毅(2011年)「RC規準による鉄筋コンクリートの構造設計[改訂版]」鹿島出版会