頭付きアンカーボルトのコンクリート耐力

「各種合成構造設計指針・同解説」日本建築学会(2010年)に記載されている

コンクリートに埋め込まれたアンカーボルトの耐力の考え方について説明します。

最大のポイントは、アンカーボルトの埋め込み部がコーン状に破壊する点です。

コーン状破壊は、鉄筋の付着とはまた違ったコンクリート耐力の考え方です。

頭付きアンカーボルトとは

頭付きアンカーボルトは、次のいずれかに該当するものとして定義されています。

(1)JIS B 1198(頭付きスタッド)の規定を満足するもの

頭付きスタッドをアンカーとしてコンクリートに埋め込んだ金物のイメージ画像

 

(2)アンカーボルトの軸部分は、JIS B 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)、

JIS G 3138(建築構造用圧延棒鋼)、

JIS G 3101(一般構造用圧延鋼材)、もしくはこれと同等の品質の全ねじボルト。

コンクリートのアンカー部(埋め込み部)には、

ボルトの呼び径の1.6倍以上の小径、呼び径の0.6倍以上の厚みをもつ鋼ナット、もしくは鋼板を

ねじ嵌合、もしくは溶接で接合したもの。

 

ナットをアンカーとしてコンクリートに埋め込んだ金物のイメージ画像

 

 
JIS B 1180 に規定されている六角ボルトも
頭付きアンカーボルトの定義に該当します。

頭付きアンカーボルトの耐力

頭付きアンカーボルトの引き抜き耐力

頭付きアンカーボルトの引き抜き耐力\(P_a\)は

 \(P_{a1}=\phi_1\cdot_s\sigma_{y}\cdot_{sc}a\)(\(N\))

 \(P_{a2}=\phi_2\cdot_c\sigma_t\cdot{A_c}\)(\(N\))

で求められた \(P_{a1}\)と\(P_{a2}\)のうちの小さい方の値になります。

 \(P_{a1}\):アンカーボルト本体の引張耐力(ねじ部の降伏荷重で決まる)

 \(P_{a2}\):アンカー部のコンクリート引張耐力(コーン状破壊で決まる)

 \(\phi_1\):鋼材の低減係数。短期荷重用⇒1.0。長期荷重用⇒2/3。

 \(\phi_2\):コンクリートの低減係数。短期荷重用⇒2/3。長期荷重用⇒1/3。

 
ボルト部(鋼材)は、降伏点の2/3倍を長期耐力
長期耐力の1.5倍(=降伏点の1.0倍)を短期耐力
コンクリート部は、コーン状破壊荷重の1/3倍を長期耐力
長期耐力の2倍(コーン状破壊荷重の2/3倍)を短期耐力
としています。
 
 

 \(_s\sigma_y\):アンカーボルトの降伏点(\(N/mm^2\))

 \(_{sc}a\):アンカーボルトの断面積(\(mm^2\))。

   通常ねじ部の有効断面積になります(軸部よりも小さいため)。

 \(_c\sigma_t\):コンクリートのコーン状破壊引張強度(\(N/mm^2\))(\(_c\sigma_t=0.31\sqrt{F_c}\))

 \(F_c\):コンクリートの設計基準強度(\(N/mm^2\))

 \(A_c\):コーン状破壊の有効投影断面積(\(mm^2\))

 

頭付きアンカーボルトのコーン状破壊有効投影断面積のイメージ画像
図_コーン状破壊有効投影断面積

 

 \(l_e\):頭付きアンカーボルトの有効埋め込み長さ(\(mm\))

 \(D\):頭付きアンカーボルトの頭部の直径(\(mm\))

 \(d\):頭付きアンカーボルトの軸部の直径(\(mm\))

 
\(A_c\)は、上式を展開すると
\(A_c=\pi\cdot{l_e}(l_e+D)\)(\(mm^2\))
となります。

頭付きアンカーボルトのせん断耐力

頭付きアンカーボルトのせん断耐力\(Q_a\)は

 \(Q_{a1}=\phi_1\cdot_s\sigma_{qy}\cdot_{sc}a\)(\(N\))

 \(Q_{a2}=\phi_2\cdot_c\sigma_{qa}\cdot_{sc}a\)(\(N\))

 \(Q_{a3}=\phi_2\cdot_c\sigma_{t}\cdot{A_qc}\)(\(N\))

で求められた \(Q_{a1}\)と\(Q_{a2}\)と\(Q_{a3}\)のうちの小さい方の値になります。

 \(Q_{a1}\):アンカーボルト本体のせん断耐力(ねじ部の降伏荷重で決まる)

 \(Q_{a2}\):アンカー部の支圧耐力(支圧破壊で決まる)

 \(Q_{a3}\):アンカー部のコンクリートせん断耐力(コーン状破壊で決まる)

 \(\phi_1\):鋼材の低減係数。短期荷重用⇒1.0。長期荷重用⇒2/3。

 \(\phi_2\):コンクリートの低減係数。短期荷重用⇒2/3。長期荷重用⇒1/3。

 \(_s\sigma_{qy}\):アンカーボルトのせん断強度(\(N/mm^2\))(=\(\Large{\frac{_s\sigma_y}{\sqrt{3}}}\))

 \(_{sc}a\):アンカーボルトの断面積(\(mm^2\))。

   通常ねじ部の有効断面積になります(軸部よりも小さいため)。

 \(_c\sigma_{qa}\):コンクリートの支圧強度(\(N/mm^2\))

 \(_c\sigma_{qa}=0.5\sqrt{F_c\cdot{E_c}}\)

 \(_c\sigma_t\):コンクリートのコーン状破壊引張強度(\(N/mm^2\))(\(_c\sigma_t=0.31\sqrt{F_c}\))

 \(F_c\):コンクリートの設計基準強度(\(N/mm^2\))

 \(E_c\):コンクリートのヤング係数(\(N/mm^2\))(\(E_c=3.35\times10^4\times(\Large{\frac{\gamma}{24}}\)\()^2\times(\Large{\frac{F_c}{60}}\)\()^{\frac{1}{3}}\))

 \(\gamma\):コンクリート単位体積重量(\(kN/m^3\))

 \(A_{qc}\):せん断方向のコーン状破壊の有効投影断面積(\(mm^2\))

 

せん断方向のコーン状破壊有効投影面積のイメージ画像
図_せん断方向のコーン状破壊有効投影面積

 

引張とせん断の組合せ耐力

頭付きアンカーボルトが引張とせん断両方の荷重を受けている場合

下記の式を満足できるか否かで判定評価をします。

 \((\Large{\frac{p}{P_a}}\)\()^2+(\Large{\frac{q}{Q_a}}\)\()^2<1\)

 \(p\):作用する引張荷重

 \(q\):作用するせん断荷重

 \(P_a\):アンカーボルトの引張耐力

 \(Q_a\):アンカーボルトのせん断耐力

注意点

「各種合成構造設計指針」に規定されているアンカーボルトの耐力の算定方法は

設備機器類及び、その構造物を備え付ける際に用いるアンカーボルトを対象としています。

JIS B 1220(構造用両ねじアンカーボルトセット)に規定されているアンカーボルト

(=鉄骨構造物の柱脚などに用いられる)

とは、設計思想・背景が全く異なっています。

参考文献

  • 日本建築学会(2010年)「各種合成構造設計指針・同解説」