高力ボルトってなに?

高力ボルトとは

摩擦接合に使用されるボルトのことです。

厳密にいえば、摩擦接合を構成するボルトとナットと座金のセット一式を指します。

「ハイテンボルト」「ハイテン」などと呼ぶひともいます。指しているものは同じです。

高力六角ボルト

JIS B 1186 に規定される高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセットのことです。

F10T(読み:エフジュッティ)という機械的性質を示す記号で表されます。

F:Friction(=摩擦接合を示す)

10:引張強さ\(=1000N/mm^2\)

T:Tensile strength(=引張強さ)

 

高力六角ボルト・セットを構成するパーツのイメージ画像
図_高力六角ボルト

 

 
駆け出し研修生
ボルトの引張強さが、\(1000N/mm^2\)なのに
F1000Tってならないのが不思議ですね。
 
JIS単位の名残りです。
\(10tonf/cm^2=1000N/mm^2\)

また、F8T(読み:エフハッティ)という記号の溶融亜鉛めっき高力ボルトのセットがあります。

F8Tは、JIS規格外となっています。めっきが乗っても嵌合しやすくするため

ナットのねじ部がオーバータップしてあるなどの理由からです。

そのためメーカーごとに、国土交通大臣認定を取得しています。

トルシア形高力ボルト

JSS Ⅱ-09 に規定されるトルシア形高力ボルト・六角ナット・平座金のセットのことです。

S10T(読み:エスジュッティ)という機械的性質を示す記号で表されます。

S:Structural(=構造を示す)

10:引張強さ\(=1000N/mm^2\)

T:Tensile strength(=引張強さ)

 

高力トルシアボルト・セットを構成するパーツのイメージ画像
図_トルシアボルト

 

トルシアボルトの最大の特徴は、

所定の締め付け力がかかると、ピンテール部が破断して取れることです。

これにより、締め付け忘れを目視で確認できます。

また、ボルト頭側の平座金もありません。

 
ボルト全数を、一次締め⇒マーキング⇒本締め
の順に施工します。
マーキングの確認があるので、
ピンテールで締め忘れを見つけることは稀です。

摩擦接合と支圧接合

摩擦接合と支圧接合では、接合のメカニズムが全く異なります。

高力ボルトの締め付けにより生じる圧着力(摩擦力)により、

板同士を滑らないようにし、この摩擦力によって外力に耐える仕組みを摩擦接合といいます。

 

高力ボルト摩擦接合のメカニズムイメージ画像
図_摩擦接合:高力ボルト

 

これに対して、ボルトの軸部との接触部に支圧力が加わり

ボルト軸部のせん断耐力によって耐える仕組みを支圧接合といいます。

 

普通ボルト支圧接合のメカニズムイメージ画像
図_支圧接合:普通ボルト

 

施工手順

ボルトの挿入から本締めまで、同日中に完了させなければなりません。

(1)一次締め

ボルトの径ごとに、所定のトルクで締め付けます。

ボルトの呼び径一次締めトルク(\(N\cdot{m}\))一次締めトルク(\(kgf\cdot{cm}\))
M1250500
M161001000
M20,M221501500
M242002000
M273003000
M304004000
表_一次締めトルク

(2)マーキング

 

高力ボルト施工時の一次締め時・本締め時のマーキングの仕方の画像
図_一次締め後マーキング

 

(3)本締め

3-1)トルクコントロール法

 \(T_r\):トルク(\(N\cdot{mm}\))

 \(k\):トルク係数

 \(d\):ねじ径(\(mm\))

 \(f\):張力(\(N\))

 \(T_r=k\cdot{d}\cdot{f}\)(\(N\cdot{mm}\))

締め付けトルクとボルト張力が比例関係にあることから

導入張力を得るために、締め付けトルクを決めて本締めをする方法です。

トルクレンチのトルクの単位は(\(N\cdot{m}\))なので、出てきた数値に1000倍しましょう。

3-2)ピンテールの破断(トルシアボルト)

トルシアボルトの締め付けトルクは、ピンテール破断トルクと等しくなるように

作られているので、原理的にはトルクコントロール法です。

シャーレンチというピンテールをねじ切る機構を持った工具で締め付けを行います。

3-3)ナット回転角法

一次締めマーキングの後、さらに120°締めこむことで本締めをする方法です。

軸回りと共回り

本締め時に、ボルトの軸とナットが一緒に回ってしまうことを軸回り

本締め時に、ナットと座金が一緒に回ってしまうことを共回りといいます。

軸回りと共回りどちらの現象もNGです。

 

高力ボルトの本締め後のマーキング確認時NGになる「軸回り」と「共回り」を説明するイメージ画像
図_軸回りと共回り

 

新しいボルト・ナット・座金のセットと交換して再施工する必要があります。

高張力ボルトと違い

強度区分10.9の六角ボルトとF10Tのボルトは、

機械的性質が似ています(降伏点や引張強さの値が近い)が、

10.9の六角ボルトを摩擦接合に使用することはできません

摩擦接合用に設計された高力ボルト(セット)は、

所定のトルクで締め付けることにより、設計された軸力で被締結材を押し付け

摩擦力を生じさせます。

この、所定のトルクで締め付けると設計された軸力が発生するように

十分に品質が管理されているものが、高力ボルト(セット)なのです。

また、高力ボルト(セット)のボルト頭とナットは、

普通のJIS規格の六角ボルト・ナットよりも少し大きい寸法になっています。

 
通常、ボルトのトルク係数は0.11~0.25くらいと
バラつきが大きくなる傾向があります。
高力ボルトは、このバラつきを小さく抑えるように設計され、
期待した締め付け力が生じるように品質が確保されています。

まとめ

高力ボルトとは、摩擦接合に使用されるボルトのことです。

高力六角ボルト(F10T)と、高力トルシアボルト(S10T)の2種類がメインです。

高力ボルトの施工は、一次締め⇒マーキング⇒本締め の順に行います。

強度区分10.9の六角ボルトと強度区分10のナットを組合せて用いても

高力ボルト(セット)の代用品として摩擦接合に用いることはできません

参考文献

  • 佐藤邦昭(2011年)「技術基準による鋼構造の設計」鹿島出版会