コンクリートのひび割れ補修

コンクリートひび割れ補修の要否

ひび割れの補修の要否を判定する場合、
原因を推定したうえで
構造物としての重要性
環境条件、補修・補強の効果
を総合的に考慮されます。

日本コンクリート工学会ひび割れ指針

日本コンクリート工学会では補修の要否の判定を、
ひび割れ原因、オーナーによる期待延命期間により判定しています。

部材性能への影響が小程度
オーナーによる期待延命期間10年未満:補修不要
オーナーによる期待延命期間10~20年:補修不要
オーナーによる期待延命期間20年以上:補修不要(定期的なひび割れ調査を実施)

材性能への影響が中程度
オーナーによる期待延命期間10年未満
:補修不要(場合によって補修が必要)
オーナーによる期待延命期間10~20年
:補修不要(場合によって補修が必要。定期的なひび割れ調査を実施)
オーナーによる期待延命期間20年以上
:補修必要

材性能への影響が大程度
オーナーによる期待延命期間10年未満
:補修必要(場合によって補修不要)
オーナーによる期待延命期間10~20年
:補修必要
オーナーによる期待延命期間20年以上
:補修必要 (補強、解体・撤去、建て替えを含む)

補修を要するひび割れ幅の限度

鋼材腐食の発生条件からみた環境条件が
厳しい場合:0.4mm以上
中間の場合:0.4mm以上
緩やかな場合:0.6mm以上


防水性からみた場合:0.2mm以上

土木学会の指針

コンクリート標準示方書

鋼材腐食に対する照査をクリアしている前提で
鋼材腐食に対するひび割れ幅の限界値を(c:かぶり厚さmm)
鉄筋コンクリート:0.005c
プレストレストコンクリート:0.004c
としています。

水密性に対するひび割れ幅の設計限界値

コンクリート断面に作用する荷重が軸引張力の場合
高い水密性を確保するとき:-(a)
一般の水密性を確保するとき:0.1mm
※(a)コンクリート全断面に圧縮力が0.5N/mm2以上作用していること

 
ずっと全断面に圧縮荷重が作用している状態が望ましい
ということですね(現実的かどうかは別問題)

コンクリート断面に作用する荷重が曲げモーメントの場合
高い水密性を確保するとき:0.1mm
一般の水密性を確保するとき:0.2mm

 
駆け出し研修生
高い水密性を確保するときと、
一般の水密性を確保するときの違いってなんですか?
 
・・・確認しときます

日本建築学会指針

鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)・同解説では

各性能について、収縮ひび割れの許容値(=限界値)と
設計値(=許容値×2/3)を定めています。

鉄筋降伏抵抗性(収縮ひび割れ幅)
許容値:0.5mm以下
設計値:0.3mm以下


漏水抵抗性(収縮ひび割れ幅)
許容値:0.15mm以下
設計値:0.10mm以下(ひび割れ発生確率:5%以下

劣化抵抗性(収縮ひび割れ幅)
屋外
許容値:0.3mm以下
設計値:0.2mm以下
屋内
許容値:0.5mm以下
設計値:0.3mm以下

鉄筋コンクリート造建築物の耐久設計施工指針・同解説では

耐久設計を行う上での前提となる許容ひび割れ幅として
屋外(雨がかり):0.3mm
屋外(非雨がかり):0.4mm
屋内:0.5mm
という目標値を示しています。

JASS5では
許容ひび割れ幅は、特記によると規定されていますが、
特記のない場合は、計画供用期間の級が、
長期、超長期の場合は0.3mm以下としています。

 
JASS5は、2021年度に大幅改定されます。
「低収縮コンクリート」についての設定が整備され
ひび割れについての意識の更新が行われると思います。

ひび割れの補修

補修材料

セメント系
セメント系材料は、汎用的な材料として広く用いられています。
ポリマーセメントモルタル(PCM)の場合、
薄層になるほどポリマーの割合が高まります。
使用するボリュームに応じて、PCMかコンクリートか、
また、流動性、充填性などの施工性に配慮して採用する必要があります。
表面の改善:×
被覆:〇
ひび割れ注入:◎
充填:◎
打ち換え:◎
引張性能改善:×
鉄筋代替:×
その他の用途:アンカー定着材など

高分子系
高分子系材料は、各種接着剤、結合剤、合成樹脂、ゴム、繊維として使用されます。
合成樹脂やゴムの場合、単体もしくはセメントと混合して用いられます。
大断面の適用例は少ないです。
表面の改善:〇
被覆:◎
ひび割れ注入:〇
充填:△
打ち換え:×
引張性能改善:〇
鉄筋代替:〇
その他の用途:接着剤、撥水材、プライマーなど

金属系
金属系は、鉄筋や鋼板等の引張補強材料として使用されます。
犠牲陽極材としての用途も増加しています。
犠牲陽極材⇒鉄筋の身代わりとして、先にさびてくれる金属
表面の改善:×
被覆:△
ひび割れ注入:×
充填:×
打ち換え:×
引張性能改善:◎
鉄筋代替:◎
その他の用途:犠牲陽極材、アンカーなど

繊維系
短繊維と連続繊維に大別されます。
短繊維はコンクリートに混和され、主に引張性能の改善の目的で使用されます。
連続繊維はFRPとして引張補強や剝落防止材として使用されます。
表面の改善:×
被覆:〇
ひび割れ注入:×
充填:×
打ち換え:×
引張性能改善:◎
鉄筋代替:◎
その他の用途:剥落防止など

ひび割れ補修工法

ひび割れ被覆工法

0.2mm以下の軽微なひび割れの上に塗膜を形成して
防水性、耐久性を向上させる目的で使用される工法です。
ひび割れ部の表面のみを被覆する工法なので、
ひび割れ内部の処理ができません
ひび割れの幅が大きい場合や、
ひび割れの幅の変動(進行)に対する追従性がない
などの欠点があります。

注入工法

0.2~1.0mm程度のひび割れに樹脂系、セメント系の材料を注入して、
防水性、耐久性を向上させる目的で使用される工法です。
注入圧力0.4MPa以下の低圧低速注入工法が主流となっています。
注入量のチェックが簡単
注入精度が作業員の熟練度に左右されない
ひび割れ深部の幅が0.05mm程度でも確実に注入できる
などの特徴があります。

充填工法

0.5~1.0mm程度のひび割れに、鉄筋が腐食していない場合の補修として採用されます。
ひび割れに沿って幅10mm、深さ10~15mmでコンクリートをU字にカットし、
カットした部分にシーリング材、可とう性エポキシ樹脂、
ポリマーセメントモルタルなどを充填してひび割れを補修します。

断面修復工法

断面修復工法とは、コンクリート構造物が劣化により、
元の断面を喪失した場合の修復や、
中性化、塩化物イオンなどの劣化因子をコンクリートごと撤去した場合の
断面修復を目的とした工法です。

鉄筋が腐食している場合での補修は次の点に注意が必要です。
腐食した鉄筋の錆を完全に除去する
・鉄筋の断面欠損が著しい場合には、新たに添え筋を追加する。
ひび割れが発生していない部分の鉄筋も腐食している場合があるので
この部分も含めて補修する。

断面修復工法には、施工条件や補修規模によって
左官工法、モルタル注入工法、吹き付け工法(乾式、湿式)があります。

左官工法

左官工法とは、補修面積が比較的小面積の場合に用いられます。
ポリマーセメントモルタルや軽量エポキシ樹脂モルタルを、
左官コテを使用して充填する工法です。

モルタル注入工法

モルタル注入工法は、補修面積が比較的大面積の場合に用いられます。
補修断面に合わせた形状で型枠を組み、
流動性のあるポリマーセメントモルタルを、
ポンプで圧送して充填する工法です。
コンクリート構造物の側面は底面(=型枠を設置できる箇所)に適用されます。

吹き付け工法

吹き付け工法は、補修面積が比較的大面積の場合に用いられます。
湿式工法:あらかじめ練り混ぜた断面修復材を直接吹き付けます。
乾式工法:粉体材料と水(混和液)を吹き付け直前に混合して吹き付けます。

表面被覆工法

表面被覆工法とは、コンクリート構造物の表面を
樹脂系やポリマーセメント系の材料で被覆することにより、
劣化因子(水分、炭酸ガス、酸素、塩分など)を遮断して
劣化進行を抑制し、構造物の耐久性を向上させる工法です。

一般に、コンクリート表面のレイタンス、汚れなどを
ディスクサンダー、サンドブラスト、高圧洗浄機などで除去し、
下地処理剤(プライマー)を塗布、
不陸調整材(パテ)処理、
主材(中塗り)塗布、
仕上げ材(上塗り)塗布、の順に施工します。

塗装以外にも成形品(パネル、フィルム、防食型枠)も、表面被覆材に含まれます。