セメントってなに?

概要

セメントとは、水と反応して硬化する鉱物の粉末のことです。

細かい品質についてはJIS(日本産業規格)に規定されています。

セメントとコンクリート

セメントと水を混ぜたものセメントペースト(もしくはグラウト

セメントと水と砂を混ぜたものモルタル

セメントと水と砂と砂利を混ぜたものコンクリートといいます。

図_セメントペースト・モルタル・コンクリートの違い
 
セメントとコンクリートの認識がごちゃ混ぜな方のために説明します。
セメントは、コンクリートを構成する材料のうちのひとつです。

JISに規格されているセメントを以下に記します。

ポルトランドセメント(JIS R 5210)

・普通ポルトランドセメント
・早強ポルトランドセメント
・超早強ポルトランドセメント
・中庸熱ポルトランドセメント
・低熱ポルトランドセメント
・耐硫酸塩ポルトランドセメント
・普通ポルトランドセメント(低アルカリ形)
・早強ポルトランドセメント(低アルカリ形)
・超早強ポルトランドセメント(低アルカリ形)
・中庸熱ポルトランドセメント(低アルカリ形)
・低熱ポルトランドセメント(低アルカリ形)
・耐硫酸塩ポルトランドセメント(低アルカリ形)

低アルカリ形はセメント中の全アルカリ量を0.60%以下に規定されています。

低アルカリ形でないものは、セメント中の全アルカリ量が0.75%以下に規定されています。

低アルカリ形は、骨材のアルカリシリカ反応により、

コンクリート構造物にひび割れ(クラック)が発生し損傷した事象に対する対策の一つとして制定されました。

高炉セメント(JIS R 5211)

ポルトランドセメントに高炉スラグが混合された混合セメントです。

高炉スラグの分量によって、A種、B種、C種の3種類があります。

・高炉セメントA種(高炉スラグの分量が5%~30%)
・高炉セメントB種(高炉スラグの分量が30%~60%)
・高炉セメントC種(高炉スラグの分量が60%~70%)

高炉スラグとは

製鉄所の高炉で鉄を精製するときに生成・分離される灰分を急冷させてできる微粉末です。

急冷させることでスラグは結晶化せず、

ガラス質で化学反応を起こしやすい状態です。

シリカセメント(JIS R 5212)

ポルトランドセメントにシリカ質混合材が混合された混合セメントです。

シリカ質混合材の分量によって、A種、B種、C種の3種類があります。

・シリカセメントA種(シリカ質混合材の分量が5%~10%)
・シリカセメントB種(シリカ質混合材の分量が10%~20%)
・シリカセメントC種(シリカ質混合材の分量が20%~30%)

シリカ質混合材とは、二酸化けい素(\(SiO_2\))を60%以上含むものと定義されています。

シリカセメントは、市中にはほとんど出回っていません。

フライアッシュセメント(JIS R 5213)

ポルトランドセメントにフライアッシュが混合された混合セメントです。

フライアッシュの分量によって、A種、B種、C種の3種類があります。

・フライアッシュセメントA種(フライアッシュの分量が5%~10%)
・フライアッシュセメントB種(フライアッシュの分量が10%~20%)
・フライアッシュセメントC種(フライアッシュの分量が20%~30%)

フライアッシュとは

石炭火力発電所で石炭を燃焼させた際に生成される溶融した灰を

冷却して電気集塵器等で集めてできた副産物のことです。

エコセメント(JIS R 5214)

都市ごみ焼却灰、下水汚泥を原料に

セメント1000㎏に対して、

これらを500㎏以上使用してつくられるセメントです。

・普通エコセメント
・速硬エコセメント

速硬エコセメントの用途は、無筋コンクリートのみとなっています。

塩化物イオン量上限値がポルトランドセメントに比べて高く規定されています。

普通エコセメント:0.1%以下

速硬エコセメント:0.5~1.5%

(参考)普通ポルトランドセメント:0.035%以下

セメントの風化とは

セメント粒子が空気中の水分と反応することで風化します。

セメント粒子の一部でこの水分と水和が始まってしまっているため

コンクリートとして使用した際に、

練り混ぜ水と完全な水和反応ができなくなります。

風化が進んでしまった水分を含んだセメント粒子を

強熱で炙ると、水分が蒸発して質量が小さくなります。

この減少量をセメントの強熱減量といいます。

風化していない新鮮なセメントほど、

強熱減量がほとんどゼロに近づきます。

強熱減量(きょうねつげんりょう)とは

試料をある一定の温度で強熱した時の質量の減少量を指します。

セメントの強熱減量は風化の度合い

セメントの強熱減量は、風化の度合い

フライアッシュの強熱減量は、未燃炭素量の度合いを示す指標になります。

クリンカーとは

鉱物や無機物が焼き固まったものをクリンカーといいます。

原料を1500℃付近まで熱し、その後急冷することでクリンカーができます。

セメントを構成する化学成分

酸化カルシウム:\(CaO\)
二酸化けい素:\(SiO_2\)
酸化アルミニウム:\(Al_2O_3\)
酸化第二鉄:\(Fe_2O_3\)

下記の2成分については、JISで上限値が規定されています。

酸化マグネシウム:\(MgO\)
⇒過多の場合、膨張して長期の安定性を害するおそれがあるため

三酸化硫黄:\(SO_3\)
⇒適正量があり、過小では異常凝結、過多では膨張するおそれがあります。

主要化合物(セメントクリンカーの主要な組成化合物)

けい酸三カルシウム:\(3CaO\cdot{SiO_2}\)(略号\(C_3S\):エーライト
けい酸二カルシウム:\(2CaO\cdot{S}iO_2\)(略号\(C_2S\):ビーライト
アルミン酸三カルシウム:\(3CaO\cdot{A}l_2O_3\)(略号\(C_3A\):アルミネート相
鉄アルミン酸四カルシウム:\(4CaO\cdot{A}l_2O_3・Fe_2O_3\)(略号\(C_4AF\):フェライト相

名称分子式略号水和反応速度強度水和熱収縮化学抵抗性
けい酸三カルシウム\(3CaO\cdot{SiO_2}\)\(C_3S\)比較的速い28日以内の早期
けい酸二カルシウム\(2CaO\cdot{S}iO_2\)\(C_2S\)遅い28日以後の長期
アルミン酸三カルシウム\(3CaO\cdot{A}l_2O_3\)\(C_3A\)非常に速い1日以内の早期
鉄アルミン酸四カルシウム\(4CaO\cdot{A}l_2O_3・Fe_2O_3\)\(C_4AF\)かなり速い強度にほとんど寄与しない
表_セメントクリンカーの組成化合物と特性

水和反応とは

セメント中の組成化合物(エーライト・ビーライト・アルミネート相・フェライト相)が

水と反応して水和物を生成する現象です。

生成される水和物
・けい酸カルシウム水和物
・水酸化カルシウム
・エトリンガイト
・モノサルフェート水和物
・アルミン酸カルシウム水和物

エトリンガイトとは

セメント水和物のひとつです。

セメント中のアルミネート相とせっこうの反応で、

水和初期に針状結晶として析出します。

エトリンガイトはそれ自体で強度を発現します。

エトリンガイトは析出する際

セメント硬化体を膨張させる性質があるため

ひび割れの原因のひとつになります

水和熱とは

水和反応中に生じる発熱現象です。

水和熱が大きくなると

コンクリートの温度が大きくなります。

急激な温度変化は、熱膨張・熱収縮が生じます。

コンクリートの温度変化によりひび割れができ、

コンクリートの劣化の原因のひとつになります。

水和熱をコントロールすることは

健全なコンクリートを管理していくうえで大事な要素のひとつです。

セメントの粉末度とは

比表面積:セメント1gあたりの全表面積を\(cm^2/g\)で表します。

1gに必要な表面積が大きい⇒細かいということです。

比表面積が大きいほど
・粒度は細かい
・強度の発現が早い
・水和熱は大きい
・乾燥収縮が大きい

ポルトランドセメントの特性

普通ポルトランドセメント

工事用や製品用のコンクリートに使用される

最も一般的なセメントです。

早強ポルトランドセメント

早期に大きい強度が発現するように(およそ3日で普通ポルトランドセメントの7日分の強度)

規定されています。

普通ポルトランドセメントよりも\(C_3S\)(エーライト)が多く、

\(C_2S\)(ビーライト)が少なくなっています。
プレストレストコンクリート
寒中コンクリート
などに使われます。

超早強ポルトランドセメント

早強ポルトランドセメントよりもさらにはやく強度が発現します。
(早強ポルトランドセメントの3日強度をおよそ1日で発現)

早強ポルトランドセメントよりもさらに\(C_3S\)(エーライト)が多く、

粉末度が細かい(=比表面積が大きい)セメントです。

現在はほとんど製造されていません。

中庸熱ポルトランドセメント

水和熱が高くならないように、\(C_3S\)(エーライト)が50%以下、

\(C_3A\)(アルミネート相)が8%以下に規定されています。

初期強度が小さい反面、長期強度が大きくなります

水和熱の上限値が規定されています(7日、28日)
7日:290J/g 以下
28日:340J/g 以下

マスコンクリート
高強度コンクリート
高流動コンクリート
などに使われます。

低熱ポルトランドセメント

水和熱を下げるために、\(C_2S\)(ビーライト)が40%以上
(=中庸熱ポルトランドセメントよりも多い)、

また、\(C_3A\)(アルミネート相)が6%以下に規定されています。

中庸熱ポルトランドセメントと同様に

初期強度が小さく長期強度が大きくなります

水和熱の上限値が規定されています(7日、28日)
7日:250J/g 以下
28日:290J/g 以下

マスコンクリート
高強度コンクリート
高流動コンクリート
などに使われます。

耐硫酸塩ポルトランドセメント

\(C_3A\)(アルミネート相)をが4%以下に規定され、

硫酸塩との反応性を小さくしてあります。

\(C_3A\)(アルミネート相)の水和物は、

コンクリートに浸透した硫酸塩と反応すると

エトリンガイトを生成し、体積膨張を起こすため、

コンクリートがひび割れの原因になります。